なぜクスコが点火系パーツを販売したのか
サスペンションや駆動系、ボディパーツで有名な「クスコ」からダイレクトイグニッションコイルが発売された。どちらかというと機械式パーツのイメージが強いクスコが、なぜ点火系パーツを発売したのか。それは、近年参加しているフォーミュラD車両の開発から誕生したものだった。今回は、『XaCAR 86&BRZ Magazine』編集部のスタッフカーであるトヨタ「86」に実装着してテストを行ってみた。すると、驚きのパワーとトルクを手にすることになったのだ。
ドリフト競技から誕生したパーツ
クスコからダイレクトイグニッションコイルが発売された。クスコが点火系パーツ? と思われる人もいるかもしれないが、発売にいたるまでの経緯をクスコの長瀬社長にうかがった。
「イグニッションコイルを扱うようになったのは、ドリフト競技車両の開発をするようになってからです。コイルの性能が上がると、パワー&トルク、とくにトルクが上がることがわかりました。点火系パーツを専門に取り扱うメーカーと協力して開発したところ、一般車両にも効果が出るダイレクトイグニッションコイルが完成しました」
ドリフト競技の場合、とにかくパワーを求められる。ただパワーを上げるとトラクションが無くなってしまう。とくに追走の場合、下から力があるエンジンでないと、まるっきりついて行けない。そこで注目したのがイグニッションコイルということだ。
編集部の86は、2022年にイグニッションコイルが1本ブローしている。コイルがブローするとどうなるかというと、急にエンジンが吹けなくなり、エンジン警告灯が点灯する。「エンジンがブローした?」と思うような症状だった。だましだまし運転してディーラーまで辿り着き、点検してもらうとイグニッションコイルの2番がブローしていた。
これは、水平対向エンジンあるあるで、エキマニに近い位置にあるイグニッションコイルはブローしやすいようだ。そのときは1本しか交換していなかったので、今回は4本すべてをクスコ製ダイレクトイグニッションコイルに交換することにした。
作業は、クスコのファクトリーで行っていただいたが、この作業がなかなか大変。補機類を取り外しても隙間が狭くて手が入らない。これはDIYというよりは、慣れたショップにお任せする方が良いだろう。
装着して、帰り道にどの程度変化があるか楽しみにしていたが、そのときは大きな変化を感じなかった。ザッカー号には、もともと定評がある市販のイグニッションコイルを装着していたために、クスコ製にしてもあまり変化がないのかな? と考えたが、フィーリングが大きく変わったのは翌日だった。
イグニッションコイルは消耗部品、どうせ交換するなら高性能なものを選びたい
交換した翌日、イグニッションコイルを交換したことを意識しないで(うっすら忘れて)運転していると、明らかにアクセルのフィーリングが良い。普段通りにアクセルオンすると、クルマが前に出すぎてしまう。何かが違う。「そうだ、コイルを交換したんだった」。
クルマの調子が良くて、クスコのダイレクトイグニッションに交換したことを思い出した。効果が出るまでに時間がかかったのは、学習する時間が必要だったのだろう。
クスコが計測したダイナパックのグラフは、GR86で計測したものだが、パワー&トルクともに純正イグニッションコイルよりも上まわっているのがわかる。数値的にはわずかに見えるかもしれないが、体感的には10馬力ぐらいパワーが上がったように思えた。
変化が大きかったことを、クスコの長瀬社長に報告したところ
「でしょ。最初はドリフト車両用に開発したパーツなんだけど、良いものができたから、一般の人にも届けたいと思って販売することにしたんです」
とのこと。
イグニッションコイルは消耗部品。諸説あるが、目安として10万kmというのが基準となっているようだ。どうせ交換するのであれば、純正よりも性能アップが狙えるダイレクトイグニッションコイルの装着をオススメしたい。また、チューニングパーツとしても有効なので10万kmに達していない車両であっても、交換する意義はあると思う。