ボーラのV8をV6に載せ替えた廉価版、では終わらない魅力がメラクにはあった
1970年代中ごろ、子どもたちの周りにあるさまざまなモノがクルマ関連グッズと化した空前絶後の「スーパーカーブーム」。当時の子どもたちを熱狂させた名車の数々を振り返るとともに、今もし買うならいくらなのか? 最近のオークション相場をチェック。今回は当時マセラティ・ファンの子どもたちの間で「ボーラ」と人気を二分した「メラク」が主人公です。
そこはかとなくフランスの香りが漂う独特の成り立ち
イタリアン老舗ブランドのひとつであるマセラティは、V8ミッドシップモデルの「ボーラ」を擁してスーパーカーの世界に参入してきた。1971年に発表されたボーラには弟分の「メラク」(1972年デビュー)が存在しており、この2台がほぼ同じボディを採用していたことにより、スーパーカーブーム全盛時に多感な時期を過ごしたマセラティ・ファンの子どもたちはボーラ派とメラク派に二分された。ちなみに1971年生まれの筆者はメラク派であった。
ボーラとメラクの関係性は、イタリア語を語源とするカフェラテ(caffè latte)とフランス語を語源とするカフェオレ(café au lait)の関係性に似ていた。どういうことかというと、ボーラに搭載されていたV型8気筒エンジンはマセラティ伝統のパワーユニットだったが、メラクはフランス車であるシトロエン「SM」用にマセラティが開発したV型6気筒エンジンを積んでいたからだ。一見するとほぼ同じだが、成り立ちが異なるので、じっくり味わってみると両者は違ったわけである。
メラクはボーラよりも下のマーケットに投入するために用意された廉価モデル。スーパーカーブーム全盛時にランボルギーニ「カウンタック」やフェラーリ「BB」のライバルとして扱われたボーラをベースとして、当時の親会社であったシトロエンのパーツを使うことで安価での販売を可能としていた。逆輸入(?)したV型6気筒エンジンのみならず、油圧式のブレーキシステムなどもシトロエンから導入されたものだ。
パワーアップしたメラクSSの登場も胸熱ポイントだった
筆者はメラク派だったが、正直に告白すると、上記のような誕生の経緯やスペック、そして、シートが2+2になっているといったようなことはまったく気にしていなかった。ただ単にメラクのエンジンフードの左右にある、ファストバックをイメージさせる梁のような構造がカッコよかったので、ボーラよりもメラクのほうが好きだったのだ。
参考までに記しておくと、このファストバックのようなスタイルを実現した梁は、外観上のアクセントになっただけではなく、エンジンルームの排熱効果のアップ、後方視界の改善などにもつながったので、一部のマセラティ・マニアの間では現在も評価が高い。
個性的なノッチバックスタイルだけがメラク派となった少年たちを熱くさせていたわけではなく、1975年にV型6気筒エンジンの最高出力が通常版の190psから220psにパワーアップされたメラクSSが追加設定されたことも胸熱ポイントとなった。いまも昔も車名の最後に「SS」とかが付くと速く感じるもので、ボーラはボーラのまま1978年に引退したが、メラクはメラクSSに進化したこともあって、「なんか勇ましいねぇ~」といった印象になったのだ。
筆者が子どもの頃に読んだポケット百科に「メラクSSは、エンジンの排気量が3Lながらスーパーカーとして抜群の操縦性を誇っている。やはり、レースキャリアが長いマセラティは伝統を感じさせる名門というわけだ」と記されていたこともあり、メラク派の少年たちはその活字を見て「SS」のスゴさを痛感した。
いまメラクを狙うなら維持の心配が少ない後期型がオススメ
メラクは1983年まで造られたが、総生産台数が1830台だったといわれており、530台前後がラインオフした兄貴分のボーラより商業的にも成功したのであった。
販売面でボーラを凌駕したメラクはいまでも人気モデルとなっており、2020年6月にドイツでRMサザビーズが開催した「THE PETITJEAN COLLECTION」オークションでは1978年式メラクSSが3万3000ユーロ(当時レートで邦貨換算約400万円)で落札された。オリジナルエンジンを搭載しているが、アメリカ仕様とのことなので、リーズナブルと思えるこの価格での落札となったのだろう。
1975年にシトロエンSMが生産終了となったことでメラク・シリーズはシトロエンとの部品共用をやめ、一般的なサーボを持つブレーキとなっている。この1978年モデルのメラクSSは油圧式のブレーキシステムなどに悩まされることがなく維持しやすいのであった。買った人のセンスのよさに拍手を送りたいと思う。