なぜHKSは内燃機関の先進技術をいまも開発するのか? 「人とくるまのテクノロジー展 2023 YOKOHAMA」で実物を見てきました

HKSが目指す内燃機関の高効率化

2023年5月24日(水)から26日(金)まで開催の「人とくるまのテクノロジー展 2023 YOKOHAMA」には、自動車メーカーから、パーツメーカー、素材メーカー、そして工作機メーカーまで、クルマ関連のさまざまな企業が出展していました。そんな中で注目されたブースをいくつか紹介します。まず最初は、チューニングのスペシャリストとして知られるHKSです。

3Dカムシャフトとプレチャンバーが今回の目玉

静岡県の富士宮市に本拠を構えるエッチ・ケー・エス(HKS)は、ターボチャージャーを筆頭にマフラーやサスペンションなど、さまざまなチューニングパーツを製造販売するスペシャリストです。そんなHKSが今回の「人とくるまのテクノロジー展 2023 YOKOHAMA」に出展した大きな目玉が、内燃機関の先進技術開発。具体的なアイテムは、放射状のラジアルバルブを可能にした3Dカムシャフトとプレチャンバーのふたつ。

燃焼室を半球型にすることで燃焼効率が良くなる、とはイメージしやすい理論ですが、ツインカムの気筒当たり4バルブという動弁レイアウトとしても、例えば直列6気筒なら12本ずつのインレットバルブとエキゾーストバルブは一列に並ぶのが一般的でした。

これをラジアル配置に置き換えると、吸排気バルブの傘と旧排気口そのもののサイズを大きくとることができることは容易に理解できますが、それを実現するのはなかなかハードルが高くなります。通常のカムでは、カム軸に対してバルブステムを直角に位置取りするのが、バルブ駆動の効率的にはベストなレイアウトとなります。

しかし、燃焼という視点から見ると、バルブはラジアル配置とした方が効率的です。そこで考えられたのが3Dカムシャフトでした。言葉で表すだけでは分かりにくいのですが、カムの摺動面をカム軸と並行ではなく、カム軸と角度をつけて円錐状とすることでバルブステムを傾けることが(バルブ駆動の効率を下げることなく)可能になってくるわけです。

そのためにはカムの研磨がとても難しくなるのですが、HKSが使用しているEMAG社製のカム研削機は5軸研削が可能なことから、一般的なカム研削機では不可能だった3Dカムプロフィールの製作が実現しました。

F1GPやSUPER GTにも使用されているプレチャンバー

プレチャンバーに関しては、まず副燃焼室を設けて噴射した濃い混合気に点火。その火炎で本燃焼室に噴射した薄い混合気に着火するというアイディアは、1970年代の初めにホンダがCVCCエンジンで実践していましたが、最近ではF1GPや国内のSUPER GTなどでも使用されている(らしい)技術です。

具体的な加工方法は、プラグホールを利用するというもので、その分、プラグはひと回り細いものにコンバートするようです。そのためにもバルブを放射状にレイアウトするラジアルバルブは有効なようで、この手法で日産のRBエンジンを使ってテストを続けている、と話してくれました。

排気ガスのエネルギーを有効活用したターボ・ジェネレーター

一方、ターボチャージャーで有名なHKSらしい出展パーツもありました。それがターボ・ジェネレーターです。一般的にターボと言えばターボチャージャーを示していて、これはエンジンの排気ガスを使ってタービンを回し、そのタービンと同軸上にあるコンプレッサーを使ってエンジンに過給しパワーアップを図ろうというもの。

つまり排気ガスのエネルギーを有効活用することになるのですが、HKSで開発したターボ・ジェネレーターとは排気ガスでタービンを回すのはターボチャージャーと同じですが、ターボ・ジェネレーターの場合はタービンと同軸上にあるジェネレーター(発電機)を回して発電するというシステム。

もちろんこれも排気ガスのエネルギーを有効活用しているわけです。プレチャンバー+ラジアルバルブもそうですが、HKSが目指しているのは内燃機関の高効率化。

2030年(以降)にガソリンエンジンなどの内燃機関を搭載したクルマが販売されなくなったとしても、使用過程車=それまでに販売されたクルマはその後も使用され続けることになります。つまり、現行の内燃機関搭載車のカーボン・ニュートラル化が必要になるので、カーボン・ニュートラル燃料への対応に加えて、内燃機関の高効率化を進めていく、というのがHKSの想いのようです。